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2000年12月1日

とき:
2000年12月1日(金)4:30pm
ところ:
東京大学総合文化研究科(駒場キャンパス)10号館3階会議室
発表者:
矢田部修一(東京大学)
タイトル:
コンパクション駆動意味合成:統語構造ではなく韻律構造に基づく意味の組み立て
概要:
本発表では、
(1)まず、理論構築の出発点として利用する Minimal Recursion Semantics
   (Copestake et al. (1999))および Linearization HPSG (Kathol and
   Pollard (1995))の手短な説明を行ない、
(2)コンパクション駆動意味合成理論 --- Yatabe (2000)において提案され
   ている、統語構造ではなく韻律構造に基づいて意味合成を行う理論 ---
   の解説を行い、
(3)この理論が、(上記論文でも主張されているように)右節点繰り上げ
   構文などを分析する上で不可欠なものであることを主張し、そして、
(4)英語などにおいて、非時制文はスコープ・アイランドではないが時制文
   はスコープ・アイランドである、という事実を説明してくれる点で、当
   理論は意味合成に関する他のどの理論とも異なる、ということを述べる。

非時制文はスコープ・アイランドではないが時制文はスコープ・アイランドで
あるというのは、例えば、

 We are required to study almost no foreign languages. (Partee (1999))

には「almost no languages」が主文をスコープとして取る読みがあるが、

 It is required that we study almost no foreign languages.(同上)

には「almost no languages」が主文をスコープとして取る読みはない、という
ようなことである。この現象は、量化をめぐる議論の中で折りに触れて取り上
げられるものであるが、この現象に納得の行く説明を与えてくれる理論はこれ
まで存在していなかった。英語の時制文が常にスコープ・アイランドであると
いう事実認定を否定している理論も含めて、意味合成に関する従来の諸理論と
本理論とを比較し、本理論の方が優れていると考えられる理由を述べる。

意味合成に関する従来の理論の多くは、幾つかの統語的構成素が組み合わされ
て1つの統語的構成素となる度に意味合成が行われるという考え方に基づいて
いるのに対し、コンパクション駆動意味合成理論においては、意味合成は、幾
つかの韻律的構成素がコンパクションを受けて1つの韻律的構成素になる度に
行われるものと主張されている。また、量化に関しては、一般に、量化子Aに
相当する韻律的構成素が他の幾つかの韻律的構成素と一緒にコンパクションを
受けてBという韻律的構成素を作り出す場合には、必ず、Bの表す意味または
その一部分がAのスコープとなる、ということが主張されている。この理論に
おいては、英語の時制文がスコープ・アイランドとなるのは、英語の時制文が
常に義務的に全体的コンパクションを受けることの必然的結果である。


参考文献

Copestake, A., D. Flickinger, I. A. Sag, and C. Pollard: 1999,
   "Minimal recursion semantics: an introduction," ms., Stanford U.
   http://www-csli.stanford.edu/~aac/papers.html から入手可能。
Kathol, A., and C. Pollard: 1995, "Extraposition via complex domain
   formation," 33rd Annual Meeting of the ACL.
   http://linguistics.berkeley.edu/~kathol/ から入手可能。
Partee, B. H.: 1999, "Focus, quantification, and semantics-pragmatics
   issues," in P. Bosch and R. van der Sandt, eds., Focus, Cambridge.
Yatabe, S.: 2000, "The syntax and semantics of left-node raising in
   Japanese," paper presented at the HPSG-2000 conference, UC Berkeley.
   (The final version is going to appear in D. Flickinger and
   A. Kathol, eds., Proceedings of the HPSG-2000 Conference, CSLI.)
   http://gamp.c.u-tokyo.ac.jp/yatabe/ から入手可能。

Last modified: Tue Oct 31 15:26:50 JST 2000